日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
高齢者のためのNPO、カウンセル・アンド・ケアwww.counselandcare.org.ukがこの6月に自治体を対象にケア料金と資格要件に関する調査を実施した。報告書「ケア矛盾−人々が最優先?」‘Care Contradictions: putting people first?’には「料金値上げ、そしてきつくなる資格要件で、高齢者、その家族や介護者に厳しい現実」という副題がついている。
これによると、在宅ケア料金の値上がりが急激だ。調査対象になった自治体の平均が1時間12.84ポンド(約2600円)で、前年度に比べて16%の増加である。最も低い自治体で8.20ポンド、一番高いところは18ポンドである。なお週ごとの最高限度徴収額を設けている自治体がほとんどだが、この限度額も平均が前年度の184.82ポンドから256.10ポンドと、39%も上がっている。国の公正な料金徴収に関するガイダンスは「妥当な額でなければならない」と規定しているが、自治体間でこれだけの幅がでてくることが、妥当といえるのか、報告書は疑問視している。
サービスを受給できる資格要件もあいかわらず厳しい。調査対象の3分の2以上の自治体が4段階のうちクリティカルとサブスタンシャルという重度のニーズがある人たちだけが資格要件を満たすとしている。
カウンセル・アンド・ケアの電話相談で、在宅ケアに関して相談してきた人の3分の1が料金の高さに悩み、料金の取り決めに関して理解できずに困っている。またアセスメントの手続きに関して相談してくる人の10人に4人は資格要件について心配しているという。
ナショナル・ケア・フォーラムwww.nationalcareforum.org.ukは2003年に民間非営利の保健医療・福祉サービス事業者を代表する会員制組織として成立した。同フォーラムの2008年人事統計調査(35組織の37249人対象)によると、会員組織の職員の離職率が憂慮すべき事態になっているという。
全体の欠員平均は8.7%と昨年度の9.1%より改善しているが、高齢者ケアホーム事業者の離職率は21.2%で1.1%増加した。成人一般の入所施設の離職率は14.2%で高齢者施設で離職率が際立って高い。高齢者向け在宅ケア事業者の場合はさらに悪く、昨年より5%増加の29.5%である。
政府はサービス利用者に合わせたより個別的なケアのパーソナライゼーション・アジェンダを進めようとしているが、熟練の適切な人材維持が難しいことから実施を危ぶむ人もある。同フォーラムは給与や労働条件の改善が必要としている。しかし、現在、サービスの主な購入者である各自治体が、事業者職員の十分な給与アップにつながるような金額を支払う余裕があるとはいえないようだ。
イングランドのヘルスケア委員会www.healthcarecommission.org.ukが2008年度に行った地域精神医療サービスの利用者調査は、前年に続き改善傾向を示した。調査対象は1991年に精神医療を定期的に利用する患者のために導入されたケア・アプローチ・プログラム(CPA)のもとにケアを受けている利用者たちで、回答は1万4千人ほどあった。
サービスが「非常に良い、大変良い、良い」という回答は、合わせて78%、ただし、サービスへのアクセスや治療方法などの決定への利用者の参加という点でまだまだ問題が残っているという。CPAの決まりで利用者は誰が自分のコーディネーターであるかを知り、ケアプランの決定に参加し、そのコピーをもらい、定期的な見直しで専門職と話しあいをすることになっている。ところが、26%の回答者は誰がコーディネーターかを知らなかった。41%はケアプランを受け取っておらず、24%の利用者がケアプランの決定に参加していないと回答している。また今後の課題として、セラピーや時間外緊急対応サービスの改善もあげられている。
なおこの10月からCPAの対象が複雑なニーズのある利用者のみに限定され、多くの利用がCPAから外れることになる。