日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
1997年に政権について以来、労働党政府は「権利には責任が伴う」という考え方を核に、若者の就労支援策、ニューデールにはじまって、数々の就労促進政策に取り組み福祉改革を推進してきた。この10月からは昨年成立の福祉改革法 Welfare Reform Act 2007 に基づき、従来の「就労不能給付」 Incapacity benefits が「雇用支援手当て」 Employment and Support Allowance に置き換えられる。
こうした改革に続くものとして、7月21日に労働年金省www.dwp.gov.ukは協議書「誰も見捨てられない: 責任に対する報酬としての福祉へ改革」 No one written off: reforming welfare to reward responsibility を発表した。主な協議事項は次とおり。
● 給付制度をシンプルにする。・・・医療上の理由で働けないでいる人のための「雇用支援手当て」と働くことが可能なすべての人のための「求職手当て」 Job Seeker’s Allowance の2つの給付を基にして生産年齢人口の制度を簡素化する。これにそって所得扶助は廃止する。
● たいていの人にとって就労不能給付は一時的にのみ受給できるものとする。・・・生涯にわたり給付を受ける権利は存在しない。2009年から2013年までの間に現在260万人いるという就労不能給付受給者は「労働能力評価」と呼ばれる医療アセスメントによって受給資格を再評価される。
● たいていの場合、受給者は給付への返礼として積極的に活動するよう求められる。雇用支援手当ての受給資格者は「労働関連活動グループ」または「支援グループ」に分けられる。前者の場合は職場復帰の支援プログラムに参加を求められ、後者は本人の意思しだいだが参加すればより高額の給付が約束される。
● 障害者が就労できるよう、かつ仕事を維持できるよう支援を強化する。そして支援の内容については、障害者自身がそのあり方についてコントロールできるよう、新たな障害者の権利を導入する。
● 子供を養育している片親がもう一方の親から受け取る養育費を、給付の計算に際して考慮外とする。
この協議は秋まで実施され、練り直された内容が次期国会に法案として提出されることになる。
この夏、特殊教育ニーズ(情報)法 Special Educational Needs (Information) Act 2008 が成立した。www.opsi.gov.uk/acts
コミュニティケアwww.communitycare.co.ukの記事「Special Educational Needs Act to increase information on services」によると、自閉症児教育のためのチャリティが担当大臣に質問書を送ったところ6割の質問で答えを得られなかったという。自閉症に関する十分な情報を把握していないためで、これでは自治体やプライマリ・ケア・トラスト(各地域の保健医療サービスの提供に責任を負う国営医療制度の組織)に効果的なサービスを期待できない。同法はイングランドの特殊教育ニーズのある児童のウェルビーイングを改善することをめざすもので、これより国務大臣は十分な関連情報を集め、その内容を毎年出版しなければならない。
精神能力法 The Mental capacity Act 2005 のもとに2007年より精神能力独立アドボケイト Independent Mental Capacity Advocate が導入されたが、このほど実施状況を記した第1回年次報告が出版された。The First Annual report of the Independent mental capacity Advocacy servicewww.dh.gov.uk
同法は国営医療制度のNHS病院職員や家庭医、自治体の職員がIMCAサービスの資格要件にかなう人たちに同サービスを紹介しなければならないという義務を課している。IMCAの役割は主に家族や友人がおらず、精神能力に欠く人を重要な事項の決定で代表し支援することだ。初年度は5175人がIMCAサービスを利用した。そのうち3047件は居住の移動に関するもの、191件はケアの見直し、671件は重要な医学的治療に関するもの、675件は虐待保護手続きに関してだった。
同報告は虚弱な人たちの権利や物事の決定のあり方が改善されたとよく評価しているが、残された課題もいろいろある。IMCA紹介の義務を単なる選択肢と誤解している関係者も少なくなく、その実施が徹底されていないという。紹介件数が全体的に低く、地域によって差が多すぎる。また重要な医学的治療に関しては特に低くこれには地理的差がないという。