日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
2007年12月10日にイングランド保健省www.dh.gov.ukが「人々を最優先」 Putting people First という中央・地方政府、専門職、ソーシャルケアのサービス提供者、研修や規制機関の間の協約 (concordat) を発表していることは以前にもリポートした。同協約は文字通り利用者や家族介護者がサービスに対して選択と最大限のコントロールを行使できるようにするなど、ソーシャルケア制度の改善をめざすもので、パーソナライゼーション(注1)がキィーワードである。
この6月、自治体の協約実施を助けるためのオンライン・ツールキット Putting People First: personalisation toolkit が発表された。
同キットはさまざまな材料からなり、以下のような内容を含んでいる。
● 構造改革枠組みの計画・・・自治体が改革プログラムを概念化し、計画し、そしてそれを他に伝えることをサポートするものである。
● ツールとガイド・・・セルフ‐ダイレクティド・サポート self-directed support(注2)を導入するために必要な事柄。例えば、資源配分、サービス購入の仲介と支援サービス計画、ポリシーやプロトコールなど。
● 個人予算 individual budgets(注3)試験プロジェクトからの例・・・計画、ポリシー、プロトコール。
注1 公的サービスが利用者の都合にうまくあうように提供されること。ソーシャルケアにおいては、誰もが自分の受ける支援サービスのあり方について選択し、管理できるようになることを意味する。
注2 利用者が自分の受ける支援サービスに関して選択と管理の権限を持つようなソーシャルケア制度
注3 複数の名目の助成を総合した前払いの予算で、受給者が自分で計画し、民間営利・非営利、公的セクターいずれからでも、支援サービスを購入できる。その一タイプである Personal budget はソーシャルケアへの助成のみの予算。これらの予算はすでに導入されている直接現金付与制度の形をとることもできるし、他の人に支援サービスを管理してもらう形もありうるという。
2008年6月、イングランド保健省www.dh.gov.ukは「人々が最優先」のパーソナライゼーション計画を実施するため、労働力戦略に関しての成人ソーシャルケア労働力戦略中間声明を出して、コンサルテーションを始めた。 Putting People First - Working to Make it Happen, Adult Social Care Workforce Strategy- Interim Statement 同声明は、「人々が最優先」を実施するうえでの労働力関連のさまざまな問題を明らかにし、優先的課題についての戦略を示している。
ソーシャルケア従事者は人々のニーズと好みを満たすようより積極的な取り組みを行う責任を持つことになる。アセスメント過程では自己評価が強調され、支援サービスの内容の詳細に対してはあまり介入せず、サービスの仲介と情報提供やアドボカシーなどの支援に力を入れる。リスクマネジメントのあり方もそれにつれて変わる。新たな制度下で虐待を最小限にくいとめるための仕組みを組み立て、新のパートナーシップを利用者や専門職や民間組織と築きそのネットワークの助けを得ることが求められている。
同声明では、ソーシャルケアの研修に関する責任を持つ組織、「Skills for Care」www.skillsforcare.org.ukが主導して、今後の成人サービスに関するソーシャルワークの役割と課題を定義すると発表されている。同組織は先にソーシャルワークの役割と課題について一般的声明 A Statement of social work roles and tasks for the 21st century を出したソーシャルケア総合協議会www.gscc.org.uk、そして成人社会サービス部長協会www.adss.org.ukと協力してこの作業を行う。サービスのパーソナライゼーション、個人予算などを実施するうえでソーシャルワーカーが担う役割を明確に描き出すことになる。今回の改革はサービス利用者や家族介護者にとっても大きなことだが、ソーシャルワーカーのアイデンティティにとっても重要な変わり目になるといえるだろう。
なお中間声明のコンサルテーションは、9月12日まで続く。
今年は1948年に創設されたNHS=国営医療制度の60周年にあたる。がん専門医のダージ氏 Lord Darzi が抜擢され、大規模なコンサルテーションを実施して制度の見直しに取り組んでいたが、その最終報告「高度のケアをすべての人に」が発表された。 High Quality Care for All:NSR final Reportwww.ournhs.nhs.uk
同リポートは現場の医療 職員がもっと力を持つようにし、患者はより幅広い選択を行えるようにするという。安全で最も効率的な治療、公平性、個別化したケア、予防・健康維持などが鍵になる。具体的には、NHSの歴史初めて規約を作り、患者の治療とサービス提供者に対する選択の権利を導入する。慢性病患者は担当専門職と個別的なケアプランに同意する。ソーシャルケアの例にならって個別予算 Personal health budget 及び現金給付の試験プロジェクトを試みる。家庭医についての選択内容を拡大する。家庭医が予防や健康維持に力を入れるような仕組みをつくる。患者に総合的なサービスを提供するために新しいタイプの医療福祉が統合した組織の試験プロジェクトを行うなど、多様な内容が含まれている。