矢部久美子のイギリス福祉情報 No.82

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<234> 児童ソーシャルワーク事務所の試験プロジェクト

 児童学校家族省www.dfes.gov.ukが来年度から実施予定の試験プロジェクト、児童ソーシャルワーク事務所についての綱領 The Social work practice: A Prospectus を公にした。(同省のパブリケーション欄でダウンロード可能)
 同プロジェクトの目的はサービスのアウトカムの改善、刷新的な取り組み、児童とソーシャルワーカーの継続した関係を築くことである。児童ソーシャルワーカーの離職率は高く、極端な例では、担当のソーシャルワーカーが30人も変わった保護児童のケースもあったという。
 同省は2008年11月までにプロジェクトに取り組むことを希望する自治体を募り6から9の自治体を選択する。
 綱領が提案しているプロジェクトのモデルは3つ、登録ソーシャルワーカーの運営、非営利組織の運営、企業運営である。これらの事務所は自治体と保護児童に関する業務委託契約を結ぶ。いずれの事務所もソーシャルワーク専門職中心だが、児童の幅広いニーズを満たすため、他の分野の人も雇用されることになるとみられる。対象は特に長期ケアを受けることになる児童で、継続的で安定した支援を行うことを目指す同事務所から最大の利益を受けることが期待されている。事務所への支払いは成果主義になるという。

<235> NHS連合もケアの財源に社会保険モデルを勧める

 5月にイングランド保健省は新しいソーシャル・ケア制度の確立に向けてコンサルテーションを開始して公的介護保険の導入も暗示したが、国営医療制度機関からなるNHS連合www.nhsconfed.orgのメディア・センターも「社会保険モデルをとおしたソーシャル・ケア財源の公正化」というプレス・リリースを行っていた。 Press release: NHS Confederation paper argues for fairer social care funding through a social insurance model 23 April 2008
 キー・ポイント(プレス・リリースより)「現制度はソーシャル・ケアの必要な人みなに提供することができていない」「解決は最貧困者を救うと同時に貯蓄の意欲をくじくことにならない社会保険制度に求められる」「現在、ソーシャルケアの利用者は全体人口の一部で、その意見を取り入れられず選択もままならない」「サービスがもっと個人に合わせたものになるには、サービスが利用者にもっと直接的に説明責任をもつものにならなければならない」
 保健省のコンサルテーションが終了するのが年度末。2009年には新しいケア制度の計画が提示されるだろう。

<236> 「ケアへの公正なアクセス」ガイダンスの不備

 ソーシャルケア監査委員会www.csci.org.ukの2006−7年度年次報告は、サービス受給要件が厳しくなったことで生じている種々の問題(ニーズが高いのにサービスを受けていない人が多い、予防的サービスが提供されていない、自治体によってサービス受給要件の運用がさまざまなど)を指摘している。これを受けて保健省のソーシャルケア担当大臣が、同委員会に「ケアサービスへの公正なアクセス」 Fair Access to Care Services(FACS)を確保するためのガイダンス(2002年導入)の実施状況を検討するよう依頼した。
 エイジコンサーンwww.ace.org.ukは、同委員会が同レビューの一環で実施しているサービス受給要件に関するコンサルテーションに対して回答文書 Commission for Social Care Inspection Review of Eligibility Criteria: Written submission May 2008 を提出している。その要点と勧めには次の様なことが含まれている。
 ●現在の問題はFACSガイダンスの内包するものというより、財源の不十分さから生じている。
 ●FACSの主な短所は自治体が提供しなければならないサービスの最低レベルを特定していないことである。自治体のFACSの要件がガイダンスと異なっている例がいくつもある。エイジコンサーンは権利としての最低限度のケアのレベルを国が設定するよう勧める。
 ●FACSガイダンスは自治体がどこまでサービス受給要件を厳しくできるかということについて最低限度を決めていないわけだが、エイジコンサーンは、この点について人権法が適用できると考えている。それゆえ政府は自治体にその法的責任を知らしめるよう新たなガイダンスを出すべきである。

<237> 介護者の就職支援などを含む新しい介護者援助戦略

 イングランド保健省www.dh.gov.ukが新しい介護者戦略を発表した。 Carers at the heart of 21st century families and communities: a caring system on your side, a life of your own(2008年6月10日)
 それには介護者の短期休息のための1億5千万ポンド、就職または再就職の支援のための3千800万ポンド、若年介護者への支援改善のための600万ポンドなどが計画されている。また介護者の健康維持をはかるための年次健康チェックや家庭医の介護者理解を高めるための研修なども実施されることになるという。

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