矢部久美子のイギリス福祉情報 No.81

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<231> 児童搾取対策オンライン保護センターのリポート

 2006年に最も危険度の高い性犯罪前科者の動向を監視するために設置された児童搾取対策オンライン保護センターwww.ceop.gov.ukは、教育機関や自治体の児童保護チームなどの広い分野で児童保護にかかわるグループと協力して事業に取り組んでいる。2008年4月21日、同センターの2年度目の成果が公表された。
 それによると100万件にも及ぶ児童への性的虐待のイメージを分析して情報の蓄積を行い、関係者をつきとめ、総合的調査の一環として18人の犠牲となっている児童を明らかにすることにつなげた。過去12ヶ月で性的虐待から救出された児童は131人、虐待の疑いで逮捕されたのは297人。逮捕数は前年度の3倍に上った。小児愛者ネットワークについては、6つのグループに潜入し解体した。同センターの事業には児童保護関係者や一般市民の協力も重要だが、5812件の通報があった。前年度に比べて76%の増加だった。
 なお同センターの事業には犯罪者の追跡だけではなく、教育プログラムも含まれている。安全第一を謳う「Thinkuknow」というプログラムは1万1000人の教師やケアワーカーをとおして170万人の児童にとどいている。また過去12ヶ月で児童保護専門職2600人が同センターの国内外で実施されたコースを受講した。

<232> 保健省大臣が介護の財源に公的保険制度導入を暗示

 2008年5月12日、イングランドの保健省大臣、アラン・ジョンソン氏が介護支援に関する大規模なコンサルテーションを6ヶ月かけて実施すると発表した。同省は各地方で一連のさまざまなイベントを行い、新しいケア制度の確立にむけて、次の様な点について一般市民、関係者から意見を聞いて2009年度初めにはグリーン・ペーパー(政策文書)を公表するという。
 ●介護支援の利用者の自立、選択、自己決定を促進できる制度
 ●高度な介護の質の保証ができる制度、最もニーズの必要な人へフォーカスした制度
 ●長期的にみて、国、個人、家族にとって賄っていくことのできる制度


 重点は介護費用をどう賄っていくかだ。過去にも、これについては王立委員会リポートをはじめいくつかの重要なリポートがだされているが、抜本的な制度改革にはいたっていない。医療や看護は無料、介護は自己負担が基本で資力調査しだいで助成を受けるという仕組みは変わっていない。施設入所でも2万1500ポンド以上あれば看護の部分を除き自己負担だ。家を所有していればそれを売って支払わなければならず、子供に残すことは不可能になる。自治体は財政難からサービス受給要件を厳しくしており、介護を受けられず困難な毎日をすごしている人が大勢いると推察されている。
 しかも今後、サービスのニーズは増加するばかりだ。20年後には65歳以上人口が全体人口の4分の1に、85歳以上は現在の2倍になると予測され、介護支援を必要とする人数も大幅に増える見込みである。現状のパターンの支出が続けば、成人の介護に要する費用は2007年度の127億ポンドから、2026年には241億ポンド、2041年には409億ポンドまで増加すると推計されている。(www.pssru.ac.ukの推計)現制度のままでは深刻な財政赤字が予想される。ジョンソン大臣は公的保険制度の導入をほのめかしているという。

<233> 無料パーソナル・ケア実施に4千万ポンドの追加予算

 スコットランドでは2002年度より、イギリスの他の地方と異なり、介護同様に、高齢者の在宅そして施設でのパーソナル・ケア(身体介護や食事介助など)も税で賄い、利用者負担無料の制度を実施している。2008年4月28日、無料のフリーパソナル・ケアと看護の制度実施の財源問題をめぐって見直し結果が報告された。www.scotland.gov.uk
 現在、フリーパーソナル・ケアを利用している高齢者は5万人で年間費用は2億8千万ポンドだが、25年後には少なくともほぼ3倍にまで増加すると推測されるという。リポートは無料パーソナル・ケアは人気があり、医療費の節約になるなど効率的な制度だとしているものの、財源については短期的には維持しうるが、長期的にはより包括的な見直しが必要になると結論している。急激な高齢人口増加の始まる5年後からその影響が深刻になる。
 スコットランド政府は、2009年度には自治体に同制度実施のために4千万ポンドの追加予算をつけると発表した。また、食事準備が無料サービスに含まれるかどうかで自治体により解釈が違っているなど混乱があるため資格要件の明確化が求められている。 

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