矢部久美子のイギリス福祉情報 No.78

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<222> ボランティアの文化を変えていこうというマニフェスト

 ボランティア活動に関する文化を変えなければいけないと、リポート Manifest for Change は訴える。同リポートを発表したのはボランティア活動の未来委員会www.volcomm.org.uk。同委員会は2006年にボランティア活動開発協議会、略称EVDC(2004年発足)によって、ボランティア活動が今後10年でどのように進化すべきかを検討し、将来のビジョンを確立するために設けられた。
 リポートは多くの改革を求めているが、まずは、ボランティア活動を支援するインフラストラクチャーの見直しがあげられる。そのための資金を中央政府は用意し、ローカルレベルではボランティアの参加のある各組織はボランティアをコーディネートするそのあり方を厳しく見直し、より創造的な新しい方法を探すべきだという。次にはボランティア活動の価値を説明しそのイメージを高めるイベントを行っていく。さらにすべての人がボランティア活動に参加しやすくする。最初に障害者が活動に参加する試験プロジェクトを行うための資金100万ポンドを中央政府は助成する。それが成功した場合はシングルペアレントや難民など他のボランティア活動になかなか参加できないグループにもプロジェクトを拡大していくことを勧めている。また犯罪記録点検は子供や虚弱成人などを対象とした場合に限るなどして、不必要な手続きを減らして活動へのアクセスを阻まないようにするなど、活動を阻むさまざまな障害をとりのぞく努力をする。その他には、ボランティア活動が履歴書などに書き込める価値ある活動と認知されるようにすべきだという提案や、ボランティアやコーディネーターなどの研修全般について改善すべきことが詳しくのべられている。
 また中央政府については資金助成だけでなく、閣内大臣の1人がボランティア活動一般ならびに国家公務員全体のボランティア活動に責任を持つようにすること(注:ボランタリー・セクターについてはすでに The Office for the Third Sector がある)、そして国会の特別委員会がボランタリー・セクターとは別個のものとしてボランティア活動についての責任を持つようにすべきだと勧めている。ボランタリー・セクターとボランティア活動をあえてわけるべきだというのは両者の理解にイギリスでも混乱があるからだという。

<223> スコットランド、無料パーソナル・ケア提供の実施が各自治体でまちまち

 スコットランドではイングランドなど他の地方とは異なり、65歳以上の高齢者は看護ケアだけでなく、パーソナル・ケアも無料で受けられる。このポリシーは2002年7月より実施されているが、財源不足など解決すべき課題が少なくない。このほどスコットランド監査局www.audit-scotland.gov.ukはリポート、A review of free personal and nursing care(2008年1月)で計画性を高めること、そしてニーズ増加に見合った財源の増大を求めた。
 一番の問題は、実施が不統一なこと。無料で受けられるパーソナル・ケアの定義が不明確で、各地の自治体が異なって解釈して実施しているという。たとえば、ある自治体では食事の準備もこれに入るが、他では入らない。またサービス利用者はどのようなサービスを無料で受けられるのかについてよく理解していないことが多い。監査局は早急にスコットランド政府と各自治体が共同して定義のあいまいさを解決すべきだと警告している。

<224> 地域ケアのサービス受給要件をみたさない人たちに自治体の支援なし

 ソーシャル・ケア監査委員会www.csci.org.ukが第3回目の年次報告書 The state of social Care in England 2006-2007(January 2008)を国会に提出した。同報告書は第一部イングランドのソーシャル・ケア全体のトレンド、第二部サービス受給要件を満たさない人がどのような状況にあるのか(高齢者に限定)の二部に分かれている。
 一部を見ると、3年前と比較して2006年3月時点では、自治体の支援を受けて施設に入居している人の数が高齢者に限らず全体的に減っている。在宅では、直接現金給付や福祉用具や短期休養サービスの利用は増えているが、高齢者全体のサービス利用者数は3年前と比べ2万7千人減少している。なお同時期に75歳人口は3%増加した。サービス提供者のトレンドとしては、入居ケア施設数の減少が続いている。が、ベッド総数は増えている。また公立やNPOの施設が減り民間企業の運営が増えている。高齢者施設の平均サイズは34ベッドで若者の9ベッドと比べるとずっと多い。在宅ケアサービス提供者も公立とNPOで減り民間業者が増えている。サービスの全国最低基準の遵守は改善傾向が続いているものの微々たる改善にとどまっている。
 第二部は支援を自治体に求めても受給要件に合わない人、または自分でサービスを購入している人に焦点が当てられている。6自治体で調査を行ったところ、次のような共通点が見られたという。「自治体は受給要件をより厳しくしている」「受給要件にあっていると思える人がサービスにアクセスしていない」「自治体は問い合わせに対し他のサービス利用などを示唆、情報提供する傾向を強めているが、その後ケアマネジメント外にあるその人がどうなったかについてはなんの追跡も行っていない」「ケアマネジャーの自己裁量の余地が少なくなり、ニーズやリスクよりもむしろ要件やサービスのためのアセスメントになる傾向がある」「自分でケアサービスを購入している人はめったにアセスメントを受けることもなく、助言や支援も得られない」「自治体の受給要件の締め付けはサービスの個別化やウェル・ビーイングなどの方針にあっていない」など。以上のことからもわかるように、受給要件に合わない人や自分でケアサービスを購入している人たちと、要件を満たして自治体のケアマネジメントの対象になり支援を受けている人たちとの間には大きな溝ができている。これは依然から指摘されていたことであり、この溝を埋める必要が警告されたことにほっとする思いだ。ケア担当大臣はこの報告後に受給要件の見直しを行うと発表した。NPOエイジ・コンサーンの代表は「それは歓迎だが、財源の大幅増加が緊急だ」とコメントしている。 

[前の情報] ← [記事一覧] → [次の情報]

筒井書房トップ