矢部久美子のイギリス福祉情報 No.76

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<216> アルツハイマー病協会が介護職員の認知症ケア研修の義務付けを要望

 アルツハイマー病協会www.alzheimers.org.ukは認知症患者の家族や介護職員、施設長など3500人にインタビューするなどして報告書 Home from Home をまとめた。この報告書は主に入所施設の認知症ケアについての家族たちの見解を伝えケアの質を向上させるためのキャンペーン活動の一環。それによると、ケア施設の3分の2の入居者(24万4千人)には認知症があり、今後も増加が見込まれている。これら認知症のある入居者のうち、認知症ケアができる施設として登録している所に入居している人は、6割だけ。残りの人にはニーズに応じた専門的ケアが提供されていないことになる。
 家族たちが最も多くあげた不満はアクティビティが充分でないということだった。同協会が調査した結果では、典型的な例で、6時間の観察の間、身体的な介護作業時間を除くと、職員や他の入居者らとの交流が見られたのはたったの2分間だったという。重症の人の場合では個室に何時間も放置されると訴える家族が多い。庭や戸外へのアクセスが禁じられているという家族も少なくない。
 その他に家族が指摘するのは、入居者を1人のかけがえのない個人として中心にすえてケアするという姿勢に欠き、軽蔑したような態度で入居者を扱ったり、尊厳を傷つける介護職員がいるということだ。プライバシーの欠如や不衛生な環境もそれに続く。また家族の4人に1人はケアの計画に関われるレベルに不満を持っている。
 同報告書は●介護職員に認知症ケアの研修を義務付けること●監査機関は入所施設セクターの主な役割が認知症ケアにあることを確認し、庭へのアクセスや人との交流などのニーズを優先課題とすること●自治体がサービス委託交渉に当たり質の向上にもっと努力することなどを勧めている。

<217> 視覚障害者のための全国戦略素案を協議中

 王立視覚障害者全国協会RNIBwww.rnib.org.ukがコーディネートして視覚障害サービスに関わる UK vision Strategy をまとめ、広く意見を募っている。現状では社会福祉サービスと医療サービスの連携が悪いうえに、専門的な研修もサービスも不十分で、視覚障害者は自立して生活をおくることがなかなかできない。同計画は、目の健康や視力障害予防、治療や矯正など目のケア、自立生活支援、エンパワメントとインクルーシブ社会という4つの項目でいかにサービスを改善していくべきかを提案している。
 自立生活支援の項目では、視覚障害者がサービス計画や監視にもっと参加できるようにすること、サービス基準(情報への権利や情緒的支援、検査など)の遵守を関係者に強制できるようにすることの必要性が述べられている。

<218> 就労不能扶助金受給者を減らすための方策が本格的に

  さまざまな方策によって就労率を高め就労不能扶助金受給者を減らそうというのが主な目的の福祉改革法 Welfare Reform Act 2007 が成立したのは2007年5月である。2008年には同法によって従来の就労不能扶助と、就労不能または障害を理由にした所得扶助が廃止され、それらが雇用・支援手当 Employment and Support Allowance に取って代わられるという。
 7月には緑書 In work, better off: next steps to full employment(労働年金省)www.dwp.gov.ukが出され関係者との協議が10月まで続けられた。この12月にはそれへの回答を含めて、いかに受身の扶助受給者を積極的な求職者にして、雇用率を高めていくのかが Ready for work: full employment in our generation にまとめられている。これには5つの改革原理として●扶助受給者を求職者にするための権利と責任のより堅固な枠組み●個別的で柔軟なアプローチ●公民のパートナーシップ●失業者の多い地域をターゲットに助成し、地域で解決を図れるよう支援する●単なる就労支援でなく就労したほうが扶助を受けていたときよりも収入が多くなるようにする、また新しい技能を取得しキャリア開発の機会をもてるようにする。
 具体的には、厳正な受給資格審査や就労のための技能点検、就労のための研修支援(研修を受けなければ扶助停止などの条件づけ)などが導入されていく模様だ。
 また前述書に先立って11月には技能を雇用につなげるための方策を示した Opportunity, Employment and Progression: making skills work が労働年金省と革新・大学・技能省www.dius.gov.ukによって共同立案されている。

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