矢部久美子のイギリス福祉情報 No.74

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<210> 真剣に受け止めてもらえない知的障害者へのヘイト・クライム

 知的障害者やその家族、関連NPO団体、政府組織、専門家などのメンバーからなる知的障害タスク・フォースが2006年度の年次報告書 Learning Disability Task Force annual report 2006-07 をケア・サービス担当大臣に提出した。www.nationaldirectorld.org.uk/dynamic/ond15.jsp
 同タスク・フォースは2001年に21世紀知的障害戦略計画 Valuing People が策定された時、その実施を監視、支援するために設置されている。
 今年度の報告書の主なテーマは医療、雇用、ヘイト・クライム(人種、宗教などいろいろな違いに由来する憎悪感情が動機となって相手に危害を加える憎悪犯罪)。医療に関しては障害権利委員会 (注※同委員会は2007年10月1日より新平等人権委員会に統合された。www.equalityhumanrights.com)の知的障害者の医療へのアクセスの不公平性を指摘したリポートや、複数のNHSトラストに関する知的障害者虐待リポート、それからNPO メンキャップwww.mencap.org.uk が発表した適正な医療がほどこされていれば助かる可能性のあった知的障害者6人の死を検証したリポートなどについて触れ、これらのリポートの結果、どのような政策が計画実行されているかについて述べ、さらに今後どうすべきかを勧告している。
 雇用に関しては、知的障害者の雇用改善に関するリポートの勧告に基づいて、障害局www.officefordisability.gov.ukが同タスク・フォースと保健省や労働年金省などからなるグループを設置し、雇用にまつわるバリアを取り除くため行動計画を作成中。この秋には詳しい計画を出版予定である。
 もう1つのテーマはヘイト・クライムだが、知的障害者は頻繁に被害にあっているという。しかも一般に彼らの発言は介護職員や司法関係者から真剣に受け止めてもらえないため、被害にあっても泣き寝入りしてしまう場合が多い。公訴局www.cps.gov.uk が警察や裁判所に対しヘイト・クライムについてのガイダンス Disability Hate Crime-A report about crimes against disabled people を出しているが、同タスク・フォースは知的障害者は特別に困難な状況にあることを指摘し、まず真剣に受け止めること、犯罪監視の仕組みをつくること、関係職員の研修を行うことなどを勧めている。

<211> 公共サービスの個別的提供を推進するとブラウン首相

 夏休みが終わる9月は主要政党の党大会が各地の海辺の町で開催され、テレビで中継される。労働党の党大会で、ブラウン首相も首相として初のスピーチを行った。www.24dash.com/centralgovernment/27881.htm
 ケア・サービスに関して特筆すべきことは、公共サービスの個別的な提供 personalisation を進めるという方針が今後も続行されるという点。「高齢者はより多くの選択肢と幅広いケアサービスを受けられるようにする」と述べている。またこのサービスの個別化への試みは個別教授など児童の教育福祉にも拡大するという。

<212> 増える高齢者ケアニーズの財源不足に悩む自治体

 自治体協会(イングランドの各自治体とウエールズ自治体協会が会員)www.lga.gov.ukは2007年10月9日に発表された総合支出見直し2007 Comprehensive spending review(2008年度から3年間の政府支出計画などを含む)についてホームページで、過去10年で最悪の内容と表明している。同協会の2007年9月19日のプレス・リリースでは、予算が厳しくなる可能性が高いことからサービスのあり方について市民とフランクに話し合いをしていく必要がでてくると予想していたが、その通りになった。
 着実に増加する高齢者のニーズに応えるための財源は不十分であり、さらなる住民税(council tax 所得にリンクせず、家屋の評価額にリンク)の引き上げが避けられず、サービスの悪化もありうるという。
 一方、英国在宅ケア協会www.ukhca.co.ukの2007年9月11日のプレス・リリースによれば、ケア市場のほぼ独占的な購入者である自治体が価格の抑制を毎年繰り返していることから、介護労働者の賃金、そして雇用者の求人や職員維持や規則への対応能力に深刻な影響が及んでいるという。この10月からは1週間に5日働く人の年次休暇が20日から24日に増えたため、さらに人件費が上がる。英国在宅ケア協会は各自治体がこうしたコストをサービス契約に反映するよう求めている。

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