矢部久美子のイギリス福祉情報 No.73

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<207> 多くの高齢者が鬱状態、サービスは不十分

 認知症ケアの遅れが指摘され保健省が全国戦略を策定すると発表したばかりだが、また精神保健サービスの憂慮すべき状況を警告するリポートImproving services and support for older people with mental health problemswww.mhilli.orgが出版された。
 精神保健と人生後期のウェル・ビーイング審問プロジェクトが設置されたのは2003年。エイジコンサーンや精神保健財団の支援を受け、独立の委員会に政府関係者が参加して調査が進められてきた。今回のリポートはその最終報告書である。
 同リポートによれば従来の予測以上に精神保健問題に悩む高齢者は多く、およそ350万人以上の高齢者たちがなんらかの問題を抱えている。65歳以上の4人に1人、85歳以上の5人に2人はある程度のうつ状態にあり、80歳以上の5人に1人に認知症があるという。しかしながら精神保健問題はしばしば無視され、患者たちは十分なサービスや支援を得られない。統合失調症のような病気を長年患って高齢化している人たちへのケアもレベルが低いとみられる。自殺率をみると75歳以上の女性の数字が一番高い。
 審問プロジェクトの委員長は「高齢期の精神保健問題は避けられないことではない、予防や治療が可能な場合が多い。彼らの生活を改善するための努力が長い間おざなりにされてきた。現状のサービスは質、量、種類、どれをとっても不適切である」と述べている。リポートは年齢差別の根絶や予防事業などをめぐって35の改善勧告を行っている。

<208> 移民労働者のビザ更新厳しく、人手不足を心配する介護業界

 ケア事業者団体のイングリッシュ・コミュニティ・ケア協会www.ecca.org.ukは2007年8月10日、ホームページに国境移民局が外国人シニア・ケアワーカーへのビザ発行を抑えているため職員が困っておりケアにも影響がでているというプレス・リリース Senior carer work permits を掲載している。同日付けで週刊誌コミュニティ・ケアwww.communitycare.co.ukのウェブサイトも Care providers allege work permit clampdown というニュースを掲載した。同記事によると「同協会と全国ケア協会、登録ナーシング・ホーム協会の3団体は過去3ヶ月にフィリピンやスリランカ、南アフリカ出身の職員がビザの更新をできなかった。また新規のケースでも許可を得られない人がいた」。同協会は外国人でも特にケアの国家職業資格レベル3を取得し英語も堪能な人たちはケア業界に必要な人材だと述べている。一方、国境移民局は今までのところ変化はないと主張しているという。こうした動きはどうも来年より新しく導入されるという移民制度に関連しているようだ。
 やはりケアワーカーの労働許可をめぐる記事 Visa rule changes put care homes on alert が2007年8月20日付けのガーディアン紙のウェブサイトhttp://society.guardian.co.ukにも載っている。こちらは主に今後導入される移民制度の変化によって大勢の外国人労働者が出国することになり、高齢者が適切なケアを得られなくなる恐れがあるという国会議員のコメントなどを紹介している。前出のイングリッシュ・コミュニティ・ケア協会は「人材不足の多くの部分を外国人労働者が補ってきた。EU域からの移民はフィリピン人と違って、ケアや看護の技術や英語力のある人は少なく、業界に適切な人材はあまりいないだろう」と不安を表わす。フィリピンの在英大使館はイギリスで働く2万5千人のシニア・ケア・ワーカーの行く末を心配し、手紙で内務省大臣にビザの更新を懇願しているという。

<209> 国会の共同人権委員会が高齢者の人権にフォーカス

 2007年8月14日、国会上下両院共同の人権委員会が「ヘルスケアに関する高齢者の人権」www.publications.parliament.uk/pa/jt/jtrights.htmというリポートを出した。同リポートは民間施設の入居者にも人権法が適用されるようにすべきであること、この10月に正式に発足する新平等人権委員会 Commission for Equality and Human Rightswww.cehr.org.uk がヘルスケアにおける高齢者の人権促進・監視の役割を担うようにすべきことなどを勧めている。

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