矢部久美子のイギリス福祉情報 No.71

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<201> 自治体との契約下でも民間ケア施設は人権法の適用外との判決

 2007年6月20日、最高裁は、84歳の女性YLさんがバーミンガム市議会らを相手に「民間ケア施設であっても公的資金によって助成されている入居者の場合は人権法1998の適用が認められるべきだ」と訴えていたが、これを斥けた。人権法1998が適用されるのは、政府や自治体や警察など公的性質のある機能を遂行する組織に限られている。
 YLさんは自治体の助成で2006年初頭に民間ケア施設に入居したが、その4ヵ月後に彼女の親族と施設側に意見の不一致があり、施設側はYLさんを退去させると脅した。YLさんには認知症があり環境の変化は健康に大きな害をもたらすことが予想された。最高裁はこの民間ケア施設が人権法下にあるかどうかを問われていた。これまでの判例でも同様に否定の判決があったが、最高裁までいたったのはこのケースが初めてで、最高裁は下級審の判決を破棄するだろうとみられていた。今回の判決は関係者には予想外のことであったようで、エイジコンサーンwww.ageconcern.org.ukや英国人権研究所www.bihr.orgなどが失望と厳しい批判のコメントをホームページで表明している。また同研究所は、政府が今まで以上に法のこの抜け穴を埋めるよう迫られることになるだろうと予測している。エイジコンサーンによればケア施設入居者は約30万人、そしてケア施設の10件に9件は民間会社の運営であるという。

<202> ますます厳しくなるケア・サービス受給の資格要件

 民間非営利組織のカウンセル・アンド・ケアが2006年に引き続き、イングランドの自治体に質問用紙を送り、全国的なケアサービス受給の資格要件と費用徴収について調査報告している。
Care contradictions: higher charges and fewer services 2007
www.counselandcare.org.uk/influence/publications
 これによると、自治体によって違いはあるものの、昨年に比べ、状況はサービス利用者にとって悪化している。予防重視の国の政策に反して、調査対象の15%の自治体が財政難から2007年に入って資格要件をさらに厳しくした。70%の自治体が4段階のレベルのクリティカルとサブスタンシャルのみを資格要件にしている。中程度、低レベルのケアが必要な人はますます自治体の資格要件からはずれ、民間非営利組織に紹介されるか、独自に民間企業などのサービスをアレンジすることになっている。懸念されることに、12%の自治体ではクリティカルのみを資格要件にしている。
 重度の集中的なケアが必要で自治体の資格要件に合う人の場合でも、その利用料金の値上げが本人や家族の生活を圧迫しているという。カウンセル・アンド・ケアはケア制度の破綻を招かないためには、予防的サービスのため緊急に財源を確保する必要があるとうったえている。

<203> 児童・学校・家庭省が設置される

 2007年6月27日、ご存知のようにブレア首相の退任後、ブラウン氏が首相に就任し内閣も再編された。この再編で、教育技能省が「イノベーション・大学・職業技能省」と19歳までの児童・青少年全般に責任を持つ「児童・学校・家庭省」に分割されたことは注目すべきである。
 児童・学校・家庭省www.dcsf.gov.ukは教育と児童福祉に加え、内務省の反社会的行動への対策であるリスペクト・アジェンダや保健省の児童保健などの事業も引き継ぐという。同省大臣にはブラウン首相の腹心の友、エド・ボールズ氏が任命された。障害のある児童を支援する民間非営利組織はそろって同省設置と障害児福祉に功績のあるボールズ氏の就任を朗報と歓迎している。

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