日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
児童サービス従事者開発議会www.cwdcouncil.org.ukは、里親が必要な知識や技能を身につけるための基準(イングランド)を設けることを明らかにした。それはまた研修やキャリア開発の枠組みにもなるという。
同議会の会長は「里親はしばしば最も扱いの難しい児童の養育に携わっているが、児童サービスの中で誰よりも報酬は少なく、支援も十分でない。今回導入する基準は、里親委託者が里子養育の最初の2年間にきちんとした知識や技能の基盤を築くようにするだろう」と述べている。
里親が基準を満たしているという証拠を提示できるようなワークブックも製作中。ワークブックの審査は自治体の里親サービスや民間の里親サービス機関が行う。これによって正式な資格を受けることにはならないが、ヘルス・アンド・ソーシャルケアの国家職業資格(NVQ)に必要なユニットの1つとして数えられることになる。
女性従事者が大半を占める職種の賃金は押しなべて低い。10人に9人が女性の介護職も例外ではない。2007年5月、機会均等委員会www.eoc.org.ukはリポート(Undervaluing Women’s Work / Labourers of love? - the cost of undervaluing women’s work)で、平等賃金法 Equal Pay Act 1970 の改正を促した。また介護職に十分な投資がなされなければ、ケアサービスがいっそう悪化することは避けられないと警告している。すでに児童や高齢者のケアサービスでは、離職率があってはいけないレベルにまで達している。児童入所施設で15%、高齢者入所施設で14%、高齢者のホームヘルパー13%。こうした事情は当然、サービスの質に大きな影響を与えずにはいない。
同リポートは雇用者、政策に携わる人たちに以下を含む8項目の改善策の実施を求めた。■技能を開発し、それを認める。技能と賃金のリンクを強化する。■公的セクターが公平に平等に評価し報酬を与える模範になる。■公的セクターはサービス委託において職員が平等に公平に技能を評価され報酬を受けるように契約を結ぶ。■職務評価法と賃金計算が女性への偏見を含んだものにならないようにしていく。
地域地方自治省www.communities.gov.ukが諮問機関としての「統合と結束委員会」(期限あり)www.integrationandcohesion.org.ukを設置したのは2006年6月のことである。同委員会の主な課題は多様な民族コミュニティ間のリンクをいかに育てていくかを検討すること。背景にはいうまでもなくロンドンでの7月7日テロ事件がある。また近年に急増した東ヨーロッパからの新たな移民の流入も各地で問題化している。
長く主流だったそれぞれの文化を尊重し多様さを豊かさとして称える多文化主義に対して、その豊かさを否定しないまでも、共通性により注目し英国民としての統合と結束を探る動向が主流となってきた。ガーディアンsociety.guardian.co.ukの6月11日の記事 Translation can discourage integration, says Kerry によると、同委員会は地方自治体にサービス利用者への翻訳文を提供する際、それが妥当かどうか厳密なテストをもとに行うよう助言するという。同省の大臣も「翻訳サービスが頻繁に実施されすぎた。翻訳があれば英語を習おうという気持ちもそがれる」とテレビのインタビューでコメントしている。各地方自治体合わせた翻訳サービスにかかる費用は2500万ポンド(現在1ポンド約250円)、国営医療制度のそれは5500万ポンドに上る。長年暮らしていても英語を話せない移民が大勢おり、サービスへのアクセスのため翻訳提供がよい実践として行われてきたが、英語の習得が相互理解や社会参加につながるという見解が強調されるようになり、翻訳利用者には肩身の狭い状況になるかもしれない。
保健省(イングランド)www.dh.gov.ukとコミックリリーフが助成した高齢者虐待に関する2年間かけた調査結果 UK Study of Abuse and Neglect of Older people が発表された。www.comicrelief.com/elderabuse
それによると66歳以上の在宅(管理人つき住宅含む)の人の2.6%が過去1年で家族、友人、ケアワーカーによってなんらかの虐待を受けたという。これに隣人や知人による虐待を含めると4%で、人口にすると342,400 人という計算になるそうだ。
同研究は英国で初めての高齢者虐待についての客観的、科学的な調査と言われる。保健省のケアサービス担当大臣は「人々は児童虐待に対するほどには高齢者虐待に心を動かさない。それは悲しいことで、そういう文化を変えなければいけない」と述べている。そして、今後は全国レベル、自治体レベルで正確なデータを集めていく。また2000年に導入された虚弱成人保護ガイドライン No Secrets の見直しを行い、ようやく法制度化も検討するという。高齢者虐待のスケールが公式に認められ、児童虐待に2,30年遅れているという対策にも弾みがつくことになりそうだ。