矢部久美子のイギリス福祉情報 No.67

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<188> 健康促進、病気予防のためのヘルスサービスの工夫

 2007年3月6日、保健省www.dh.gov.ukは、昨年発表した政策文書 Our health, our care, our say を実施する際のサービス委託の枠組みとなる Commissioning framework for health and well being のコンサルテーションを始めた。www.commissioning.csip.org.ukこの協議文書の目的は、いかに個別的なサービスを提供し健康とウェルビーイングを促進し病気を予防していくか、そしていかに各機関が協働を進めて健康格差を減らしていくか、その方法をサービス委託者たち(国営医療制度NHSの主要機関である各地のプライマリケアトラスト、家庭医、地方自治体)に示すことだという。
 詳しくは以下の8ステップにまとめられている。
 1.利用者中心(選択、コントロール、情報)
 2.全体と個人のニーズ理解(サービス委託者が共同してニーズアセスメントを行う)
 3.情報の効果的な使用と分かち合い
 4.すべてのサービスに高度の質を保つ事業者を確保する(事業者とのパートナーシップを強化する)
 5.労働と健康、ウェルビーイングのつながりを認識(雇用者と共同して被用者への助言支援を進めるなど)
 6.健康とウエルビーイングを向上させるためのサービスを委託するインセンティブを高める(各機関が契約、共同財源化、直接現金給付などをとおして協働する)
 7.保健省と地域・地方自治省www.communities.gov.ukが一緒に単一の「ヘルス・ソーシャルケアのビジョンとアウトカム」についてのフレームワークを製作する。
 8.保健省そして他の関連する全国的機関が各地のサービス委託者をサポートする
 上記の項目6では、「青少年に‘怒りマネジメント’などの支援を行い自傷を未然に防ぐ/社会的、実際的な支援をできるようなコミュニティを育成することで過疎地の孤立した高齢者が自立を維持できるようにする」など、国営医療制度(NHS)の財源を、新しいヘルスモデルのサービスに柔軟に使うことが勧められている。
 ただし、法律(Community Care 1990 Act)によって、通常はNHSの財源をコミュニティケアサービス(ホームヘルプや入所ケアなど)に使用することは認められていない。例外はヘルスニーズを満たすのに必要な場合や自治体とプライマリケアトラストの間に正式なパートナーシップや共同財源の取り決めがある場合だという。なお利用者負担について再確認しておけば、NHSのサービスとして受ければ個人負担なし、自治体のソーシャルケアとして受ければ資力調査しだいで自己負担ありである。この点は平等という観点などからしばしば難しい問題を招くことになってる。
 ガーディアンsociety.guardian.co.ukは大臣がある会議で同協議文書を発表した様子を「保健大臣が家庭医はソーシャルケアを処方すべきと発言」 GPs should prescribe social care, says Hewitt という人目をひくタイトルの記事で「戦後にヘルスサービスが築かれて以来の最も大きな動き」と記している。また、同記事は自治体のリーダーたちの反発を予想している。というのは各地のプライマリケアトラストが財政難で高齢者や障害者のサービスを削減していることの影響で、自治体も2007年度に成人社会サービスの大幅な予算削減を行わなければならない状況にあるからだ。
 協議は5月28日が締め切り。7月にはその成果がまとめられる。

<189> シングルマザーなどに就労を促すためのウェルフェア・リフォーム

 2007年3月上旬、労働年金省www.dwp.gov.ukの委託を受けたD.フロイド氏が「依存を減らし、機会を増やす:将来の‘福祉から就労へ’の選択肢」Reducing dependency, increasing opportunity: options for the future of welfare to work というリポートをまとめた。www.dwp.gov.uk/welfarereform/seminars
 昨年暮れから、同氏は1997年以来取り組まれてきた‘福祉から就労へ’プログラムを見直し、現状の労働人口(女性16から59歳、男性16から64歳)の雇用率74.5%を80%までひきあげるという政府の目標に向けて今後とるべき政策を検討してきた。同リポートはこれまでの成果を認め、従来の就労支援制度を維持しながら、さらに片親や慢性病患者などのグループにも条件付の就労支援制度を導入していくこと、そして複雑な公的扶助制度を労働人口に関しては単一制度に編成すべきだと提案している。また就労支援事業に営利、非営利組織とのパートナーシップも検討している。
 メディアが最もおおきく取り上げたのは「福祉依存」という偏見や非難を受けがちな片親について。現在、片親家庭の親は子供が16歳まで求職活動をせずに公的扶助を受けることができるが、その年齢を12歳に下げるよう提案している。片親家庭の雇用率は56.5%、デンマーク80%などと比べきわめて低い。チャイルドケア制度の充実が1つの鍵になると言われている。

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