日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
シンクタンク、ニュー・ポリシー・インスティチュートwww.npi.org.ukが、第9回目の「英国における貧困※と社会的阻害モニタリング2006年報告書」Monitoring poverty and social exclusion in the UK 2006 を発表した。労働党は政権についた1997年より貧困と社会阻害への対策に取り組んできたが、同報告書は、政府が対策を行った局面では確かな改善が見られたと分析している。
貧困状態にある児童は大きく削減した。貧困児童数を100万人減らすという目標達成にはいたっていないが、1998年度の410万人から2004年度には70万人減って340万人となっている。
貧困児童の半分はワーキングクラスに属している。これから同報告書は政府の「労働こそが貧困脱出のルート」という戦略が多くのケースで当てはまっていないと指摘している。貧困の大きな原因の1つは低賃金。低賃金のカップルは共稼ぎすることでのみ貧困をさけることができる状況だという。
貧困状態にある成人は、年金生活者、特にシングルで大幅に削減した。これが政府の貧困戦略で最も成功した点。それに反し、労働人口での貧困は減っておらず、一番の弱点になっている。特に障害者の貧困率は高い。
過去10年で生み出された新たな富の4分の3はより豊かな層に流れており、高収入の人の賃金アップ率は平均収入の人のそれを大きく上回った。ただ男女の賃金格差は縮小している。社会的クラスによる健康格差は広範囲に表れ、改善がなかなか難しいようだという。
教育の分野でも、将来の貧困が危ぶまれる統計が見られる。19歳の4分の1以上が教育最低基準(国家職業資格レベル2または同等の資格)に達していない。これは9年前とほぼ同じ数字である。16歳で教育または研修を受けていない割合は2000年以来変わらず15%より下がっていない。
同報告書はその作成に助成金を出しているジョセフローントリー財団wwrw.jf.org.ukのホームページに掲載されている。www.poverty.org.ukではグラフが新しいデータによって更新されている。
※現行の貧困の定義(収入が英国の平均家庭収入の60%以下である家庭)
NPO、介護者UKwww.carersuk.org
が、介護者が受ける権利のある給付を受けていないケースが非常に多いことを報告書 The importance of information for carers で明らかにした。
今回の調査によると、家族などの介護をしている人はおよそ600万人ほどいるが、そのうち65%は、最初の1年は自分を介護者(carer)という用語で考えていない。32%は5年ぐらいたって初めて「介護者」と認識している。そのためこの間は介護者法で定められた介護者のアセスメントや、介護者給付なども受けていない。
同報告書は2001年の国勢調査の分析をして、毎年およそ220万人が新たに介護者になり、同じくらいの数の人が介護相手が亡くなるなどして介護者ではなくなっているという事柄も指摘し、新たに介護者になる人たちへの早期の情報提供の重要さを訴えている。
ソーシャルケア監査委員会(イングランド)www.csci.org.ukは、Making Choices: Taking Risks(2006年12月)という論文で、リスクアセスメントは衛生や安全だけでなく個人の自立を維持しウェルビーイングを守るためのニーズを考慮に入れたものでなければならないと主張している。コミュニティケア法が施行された1990年代当初、NPOのカウンセル・アンド・ケアはケアが必要な高齢者の選択とリスクをとる権利についてキャンペーンを展開していた。それから10数年も経た今、ソーシャルケア全般を監視する機関が高齢者が十分な情報を与えられた上でリスクを選択することのできるような福祉文化へのシフトを関係者に求めているのだ。
しかし、ケアの現場は厳しい状況にある。同論文発表と同時期に出された同委員会の年次報告書 The state of social care in England 2005-6(上記ホームページに掲載)はメディアでも「高齢者ケア・クライシスが迫ると家族たちが語る」などという見出しで報じられた。財政難からサービス資格要件が底上げされ、重度のニーズ有りと認められる人だけが自治体のケアの対象になる傾向が続いている。選択の余地は少なく、中には最低基準を満たしていないサービスを受ける利用者もいる。しかも、かなりの自治体が対象外の人に対して、自分でサービスを購入するための情報や、無料で利用できるNPOのサービスなどについての情報助言を適切に与えていないようだという。