矢部久美子のイギリス福祉情報 No.64

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<178> 400年のチャリティの歴史に新しい時代

 英国の慈善事業の法律制度は400年以上も前のCharitable Uses Act 1601に始まっている。この驚くほど長い歴史において最も重大な変化をもたらすことになるという法律(イングランドとウエールズが対象)が4年がかりで2006年11月8日に成立した。
 Charities Act 2006www.opsi.gov.uk/acts/acts2006/20060050.htm
 同法は従来の制度を次のような点で改革することになるという。
 「チャリティ(公益性が認められ認可・登録された非営利組織)が効率的に効果的に運営できるようにする。
 チャリティの資金集めに関する規則を改善し、同セクターへの規則を緩和する。特に小規模組織に対して。
 公益性を強調することでチャリティの定義をより明確にする。
 規制する機関としてのチャリティ委員会の機能と権限を近代化し、その説明責任の義務を増大し、かつ政府大臣らからの独立性を守る。」

<179> アルツハイマーズ協会が認知症薬の処方を求めてプロテスト

 アルツハイマーズ協会www.alzheimers.org.ukが2006年11月17日、アルツハイマー型認知症治療薬(アリセプトなど)に関する臨床指針などに抗議してイングランドとウエールズの各地30箇所以上でプロテスト・マーチを組織した。同指針によると治療薬は症状が中程度の患者にのみ処方されるなどとなっている。アルツハイマーズ協会のキャンペーン・ページには「何千というアルツハイマー病患者の症状を大きく改善する薬がたった1日500円くらいの費用しかかからないというのに拒否された」と書かれている。
 この不人気な方針を決めたのは国営医療サービス機関(患者負担が薬の処方箋料金1500円程度あるだけで、他はすべて国費負担)のために、医薬や予防・健康促進に関する指針を作る責任のある機関、NICE「ナイス」。www.nice.org.uk NICEは指針策定に当たって医療効果ばかりでなく経済効率も考慮しなけれならない。また専門家はもとより患者や支援団体などの意見も聴くことになっている。今回の認知症治療薬に関しても、NICEは2度のコンサルテーションを行ったが、その結果に関係者は納得できなかった。
 アルツハイマーズ協会などNPOと看護協会、老年学・精神科医協会、そして製薬会社などがあわせて5つのアピール(抗議)手続きをとった。アルツハイマーズ協会と他のNPOと看護協会の共同アピールは次のような内容だ。「介護者の利益になるという点を考慮すること、神経弛緩薬の使用を抑えることに失敗した」「生活の質を計測していない」「初期治療の重要性を見逃している」「治療薬へのアクセスをMMSE(ミニ精神状態試験はwww.parinc.comでサーチできる)で決めることは不適切で差別的である」
 だが、アピールの大部分は聞き入れられず、先のプロテスト・マーチが実施された。現在、アルツハイマーズ協会はなんらかの法的手段に訴えるかどうかを検討しているという。

<180>不登校の3分の1はいじめが原因

 11月20日は、反いじめ同盟www.anti-bullyingalliance.org.ukがコーディネートする反いじめ週間(Anti-Bullying Week)の初日。反いじめ同盟は2002年に児童虐待と闘うNPOのNSPCCwww.nspcc.org.ukと児童福祉全般のために働くNPO、全国児童事務局www.ncb.org.ukによって始められたもので、65組織のネットワークを築き、いじめ対策に力を注いできた。
 同盟のマネジャー、ジル・フランシスさんはガーディアンのウェブページに「いじめの傍観者になるな」 Don’t be a bystander to bullying という見出しで寄稿している。「今年の反いじめ週間は『いじめ。目をつぶるな、助けろ、止めろ』のメッセージとともに傍観者の役割に焦点を当てている。」www.EducationGuardian.co.uk
 この記事によるといじめの大半の現場には傍観者がいるという。同盟が7歳から18歳の1500人にアンケートをとったところ、いじめを目撃した子供の38%が止めようとしなかった。その理由は自分もいじめにあうのを恐れて、または誰に相談していいか分からないから。
 一方、児童のいじめ対策を専門にしているNPO、ビートブリィング(いじめを克服する)www.beatbullying.orgは「いじめと不登校報告書2006」 bulling and truancy report 2006 を発表した。リポートは1日平均の統計、不登校5万5千人の3分の1にあたるケースで、いじめが不登校の原因になっているとしている。そして不登校は将来の失業にもリンクしている。
 反いじめ週間に当たって、教育技能省www.dfes.gov.uk のアラン・ジョンソン大臣はいじめを教師などに報告するように促すため、仲間を相談相手として育てる「ピア・メンタリング計画」を実施するための特別予算を発表した。そればかりでなく、今後導入される制度のもとで、学校でいじめをした児童の親が20万円程度の罰金を受ける可能性があることも強調した。

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