日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
2006年10月、ソーシャルケア監査委員会(イングランド)www.csci.org.ukは、高齢者への聞き取りや事業者サービス監査や自治体の業績評価などをとおして2年間にわたって検証した在宅ケアサービスの現状と将来性について報告書をまとめた。Time to Care? An Overview of home care services for older people in England, 2006
[PDF]www.csci.org.uk/PDF/time_care_full.pdf
現状で、在宅ケアサービスの8割は、ケアマネジメントを実施する自治体が購入者となっている(たいていの自治体は利用者の経済力によって一部負担を課している)。直接現金給付の利用者は7千人しかいない。
自治体の補助を受けて在宅ケアサービスを利用した人の総数は1992年の52万8500人から2005年には35万4千人に減った。自治体によってサービス利用者数、そしてケアの質は大きく異なるという。ただこれまでも指摘されてきたように、早期介入、予防重視という政府の政策に反して、受給資格が厳しくなる傾向があり、サービスの必要な人が放置され予防の機会が見逃されている事態が憂慮されている。一方、2002年度と2005年度を比較すると退院手続きの遅れは半減し、施設入居者も14%減少した。
2006年3月現在、在宅ケア事業者総数は4622、その8割は民間営利、または非営利団体の運営である。大半が週に500時間程度のケアを提供する小規模事業者。そして2005年度にソーシャルケア監査委員会が登録解除した事業者は416、新規登録したところは905と動きが激しい。自治体が委託先を少なくした結果、整理統合の兆候もみえてきたとはいえ、在宅事業セクターは健全な状態にあるとは言えない。多くが求人難に悩まされており、求人にあたって義務付けられているチェックが39%の業者で守られていなかった。セクターが将来のデマンドに応じサービスを拡大し、質を改善していけるようになるためには、最大のサービス購入者である自治体に創造性が求められ、セクターとの関係のありようも変えていかなければならない。
サービス利用者、高齢者のサービスに対する不満は、「ヘルパーがいつも急いでいる」「時間が15分など短い」「時間に遅れる」などが非常に多い。ケアパッケイジで細かく作業持ち時間と活動が決められているが、これに対してヘルパー、利用者ともども、作業のための時間が不十分という意見、また柔軟性がないことへの不満を持っている。サービスと利用者が欲しているものとのギャップが明らかであり、これをどう埋めるかが大きな課題である。
教育技術省www.dfes.gov.ukは主に自治体の保護を受けている青少年児童の福祉について革新的な政策提案をした文書(グリーンペーパー)を発表、コンサルテーション活動を始めた。
Care matters: Transforming the Lives of Children and Yong People in Care
[PDF]www.dfes.gov.uk/consultations/downloadableDocs/6731-DfES-Care%20Matters.pdf
主な提案は次のとおり。
自治体の保護を受けたり親の元へ戻ったりを繰り返す児童とその家族への支援(養育放棄の発見と対応についての研究・児童を家族にとどめるための集中的家族療法モデルの実地試験など)。保護児童への自治体の役割(独立した自営ソーシャルワーカー・グループに自治体が保護児童ケアサービスを委託する可能性を探る・担当ソーシャルワーカーが各保護児童のための個別予算をもつプログラムを試験的に行うなど)。保護実施のあり方(全国基準や資格制度などを導入して新しい里親制度の枠組みを作る・里親を多専門職が支援する集中的ケアを幼児対象に試験的に行うなど)。保護児童の教育(ソーシャルワーカーが保護児童の教育支援のための特別予算を持つ・各自治体に保護児童教育改善の責任者を設けるなど)。学校外での生活(保護児童がレジャー設備を無料で使用できるよう自治体が努力する・保護児童への包括的な保健サービスを行うなど)。保護児童の成人への移行期(18歳で保護を離れるのを拒否する権利を児童が持つプログラムを試験的に行う・教育継続に必要な支援を受け、21歳まで里親で暮らすプログラムを試験的に行うなど)。制度運営のための枠組み(教育監査委員会が定期的に、自治体が保護児童の教育のニーズを満たしているかどうかの監査を行う・担当大臣が保護児童の状況を毎年調べる・保護児童の教育を自治体の最優先課題の1つに定めるなど)。
2006年10月26日、「力のある、繁栄する地域」と題された地方自治改革の政策を記したホワイトペーパーが発表された。
Strong and prosperous communities, Local Government White Paper
www.communities.gov.uk/index.asp?id=1503999
「力のある、繁栄する地域」とは、自治体そして地域住民がもっと自由により大きい権限を持って地域のあり方を決めていくことを意味している。行政サービス提供者に住民の意見を聞くことが義務化される。政府の指定する全国目標数は1200から200にまで減らされる一方、地方の説明責任は強化される。地方議会は直接選挙によって市長を選ぶなど3つのタイプのリーダーシップモデルから選択するようになる。地方自治体は社会、経済、環境の改善をめざした「パリッシュ」(最小地方行政単位)を設けることができる。ロンドンではこれまでパリッシュの設置は認められていなかった。