矢部久美子のイギリス福祉情報 No.60

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<165> 今後5年間で新世代コミュニティ病院に1500億円を投資

 保健省www.dh.gov.ukは、先に発表した白書 Our health, our care, our say で予防強化・早期介入、患者の選択の拡大、平等とアクセス面の改善、慢性病患者への支援強化などを目標に掲げ、新世代コミュニティ病院の開発に触れていた。この7月、そのためのより具体的なガイドを作った。Our health, our care, our community ? investing in the future of community hospitals and services
[PDF]www.dh.gov.uk/assetRoot/04/13/69/32/04136932.pdf 同書によると、今後5年間で1500億円が新世代コミュニティ病院に投資される予定だ。
 2007年には65歳以上人口が18歳以上人口を上回る。急性病による死亡者は減り、慢性病患者の数が増え、イングランドの慢性病患者数は1500万人に達した。急性期治療病院中心の医療からコミュニティにシフトしたヘルス改革が求められている所以だ。現存の300ほどのコミュニティ病院(規模内容いろいろ)は新しいビジョンを達成するのには適していないものが多いという。しかも独仏などと比べ、高度専門病院が効率的に使われていないという反省や、技術の発展が地域での対応を可能にしているという事実もある。そして患者は地元の身近なサービスを求めている。
 新世代コミュニティ病院は10万人以下人口の地域を対象に、専門医療やソーシャルケアも含めた多専門職が参加して多様なサービスを提供する拠点となる。コミュニティ病院事業計画の主体になるのは各地の包括的保健医療の計画・サービス提供に責任のあるプライマリ・ケア・トラスト(国営医療制度NHSの主要機関)で、自治体や地元のNPOや関連企業とも協力して特別予算に応募しなければならない。計画の鍵になるのは地域関係者の参加を得て地域のニーズに応じた内容にすること、質保障の仕組み、患者の立場に立った仕組み、将来ニーズの考慮、新技術の応用、急性病院利用抑制プラン、健全な医療経済全体の中で維持可能であること、ソーシャルケアや他の公共サービスのニーズを包含した総合性、職員の可能性の育成と柔軟な労働体制の構築などである。

<166> NHSの赤字がソーシャルケア・サービスをおびやかす

 上記165のようなヘルス改革のニュースがある一方、各地の国営医療制度機関(NHSトラスト)の赤字財政のニュースも溢れている。例を挙げよう。@Wiltshire boss quits over cuts in services 04/05/06 www.communitycare.co.uk ACash crisis? We’ll just have to raise it 12/07/06 www.SocietyGuardian.co.uk
 @はウィルトシャー県のプライマリ・ケア・トラストと共同事業を推進してきた自治体のコミュニティケア部長が同トラストの赤字財政から大幅なサービスの削減を強いられることを拒否して早期退職という内容。Aはケンブリッジ県の青少年精神保健NHSサービスが赤字財政からこの秋に事業を終了することになったが職員たちがNPOを設立して事業を続けるために緊急資金援助を各種助成財団などに求めているという内容である。
 地方政府協会www.lga.gov.ukは「NHSトラストの赤字財政のイングランドの自治体に及ぼす影響」 Social Care Finance Survey June 2006 をホームページに掲載している。NHSトラストが赤字財政になっている地域のイングランドの自治体78に電話調査した結果の報告だ。回答したのは55自治体で、NHSトラストの赤字財政により自治体が様々な悪影響を受けているとしたところは37自治体。4自治体はコミュニティケアへの資格要件をきつくし、6自治体ではアセスメントやサービス提供開始が遅れているという。

<167> 児童のメンタルヘルスが悪化

 全国新聞、ガーディアン紙www.SocietyGuardian.co.ukは「児童の精神異常が急上昇、報告書出る」 Child mental health disorders have soared, says report 21/06/06 の見出しで、英国医師協会 www.bma.org.ukの出版物 Child and Adolescent Mental health について報道している。
 同書によると過去30年で何らかの精神の異常がみられる児童は2倍以上に増え、5歳から16歳(義務教育期)までの児童では9.6%に摂食障害や情緒、行動面の異常があるという。特にリスクが高いのは貧困家庭の児童や自治体の保護の対象になっている児童ら。異常を引き起こす原因として、家庭内暴力・崩壊、若年での飲酒、粗悪な食環境などが推測されている。
 一方、タイムズ紙www.timesonline.co.uk は British children among Europe’s most deprived というタイトルで、専門雑誌に載ったEU域内の児童のウェルビーイング比較リポートについて報道しているが、英国の児童は、両親との会話が少なく、やはり薬物使用や飲酒が非常に深刻な問題になっているという。

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