矢部久美子のイギリス福祉情報 No.59

日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。

*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。

<162> 保健省(イングランド)に新長官ポスト、新ユニット

 保健省www.dh.gov.uk(press releases notices, 22 June 2006)に @新しくソーシャルケア長官ポスト(Director General for Social Care)と A社会事業ユニット(Social Enterprise Unit)が設けられた。
 @ 同ユニットの目的は保健福祉分野に、革新的で、事業家精神を持った社会事業者の参入を促し、利用者のニーズによりあったサービスが開発されるようにすること、そのために社会事業者が社員やサービス利用者の参画を得て、ニーズにあったサービスを組み立てるよう戦略を立てていくという。同ユニットが設置された同日には、ブレア首相が非営利セクターにもっと福祉用具提供事業に参加してもらうようにすると述べている。福祉用具提供事業は見直しが続いており、2007年秋までに新しい事業モデルを確立する予定。
 A 新ポスト、ソーシャルケア長官に任命されたのは現ソーシャルケア監査委員会の主任監査官であるベーハン氏(David Behan)。2006年1月、保健省の運営委員会(Departmental board)の一員となる同ポストを設置するとの発表があり、今回の任命となった。2003年に大幅にソーシャルケアポストが削られてから、ソーシャルケアに関するダイレクターで運営委員会のメンバーに入るポストはなかった。新ポストは保健省におけるソーシャルケアの地位改善の流れの1つであるとみられ、ベーハン氏には同分野で全国的にリーダーシップを発揮し、資源確保、効率効果性の保証、そして改革、改善を推進していくことが期待されている。

<163> イングランド自殺予防全国戦略の進捗状況リポート

 自殺予防はイングランドでも重大な課題である。2002年にはイングランド自殺予防全国戦略 National Suicide Prevention Strategy for England が立ち上げられ、2010年までに、自殺・自殺未遂を1995−1997年に設定されたベースラインより20%減らすことがターゲットになっている。これは人口10万人につき9.2の死亡から7.3に削減することを意味する。
 この春、精神衛生国立研究所NIMHEは、同戦略についての年次報告書(Progress Report 2005)を発表した。
http://nimhe.csip.org.uk/index.cfm?fuseaction=main.viewItem&intItemID=85537
 同報告書は、1章が2005年度の活動の要約と2006年度の計画、2章は戦略実施のための統計データ分析、3章はケアサービス改善パートナーシップCSIP(8箇所の開発センター)www.csip.org.ukが関与している自殺予防活動(鉄道会社と連携し自殺の多い所に監視カメラをつけるなども含み多様)についての説明、それから付録1が同戦略実施の包括的最新情報という構成である。全体としては、自殺は減少傾向にあり、最も多いグループ(40歳以下の男性)でもようやく減少の兆しが見えてきたという。

<164> ヘルスケア委員会が公表した深刻な知的障害者虐待

 7月半ば知的障害者への虐待が大きなニュースになった。南西部イングランドのコーンウォールという温暖で風光明媚な退職者の好む地方での出来事だった。
 ヘルスケア委員会とソーシャルケア監査委員会の共同調査によると、コーンウォール・パートナーシップ・トラスト(国営医療制度の一組織)が運営する病院や自立支援サービスなど複数のケア現場で職員による重大な人権侵害が明らかになった。Investigation into services for people with learning disabilities at Cornwall Partnership trustwww.healthcarecommission.org.uk 報告された虐待は、経済的虐待、自分の顔をたたくのをとめるためという口実で毎日16時間ベッドまたは車椅子に包帯で拘束、たたいたり押したりひきずるなどの身体的暴力、薬による過剰な行動管理、しつけとして食事の制限、水のシャワーを浴びせる、個室に監禁、部屋にベッドをおかず床で就寝させるなど信じたくないような内容だ。こうした深刻な事態が起こり、しかも長く改善いたらなかった理由として、サービス運営主体の虐待保護手続きの仕組みが不十分であったことやサービスを利用者のために購入している機関(プライマリ・ケア・トラスト、やはり国営医療制度の組織)がサービスを見守る仕組みをもたなかったことなどなど、多数の組織的欠陥が浮かび上がった。2委員会の共同調査が入ったあとは、関係職員が解雇され、サービス利用者40人が同地区の虚弱成人保護手続きの対象になり、改善の取り組みが行われている。
 なお、最近、深刻な虐待の例が幾つかあり、危惧すべきところが他にもないといえない状況から、ヘルスケア委員会は全国の知的障害者サービス事業提供者の監査を実施することにした。結果は2007年に公表するという。

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