日本同様、イギリスでも大規模な保健医療・福祉改革が進んでいる。新しいシステムを構築する試行錯誤の時代にあって、イギリスの取り組みに関心をもつ日本人も少なくない。今は日本にいながら各国の研究所や公立機関などのホームページで最新の情報にアクセスできるが、問題は大量の情報から自分にとって必要なニュースをどう選り分けるか、長文の読書時間をどう見つけるかということだろう。このコーナーでは、イギリスの最新の社会福祉の動きを知る上で、最も重要と思われるニュースを要約して、気軽に読んでもらえるようにしたい。また、関連のホームページを紹介して情報探索の案内に努めるつもりだ。
*矢部久美子…イギリス在住。英国の高齢者福祉問題について取材・執筆活動を行う。著書に「ケアを監視する―英国リポート」(筒井書房)などがある。社会福祉士。
慢性病患者への対策は事後処理的に行なわれるのがこれまでの傾向で、そのつけが病院サービスに大きな負担をかけている。そうした現状を変えようと、イングランドの保健省www.dh.gov.ukは新たな政策を打ち出した。
2005年1月に発表された計画書「慢性病患者への支援」Supporting People with Long Term Conditionsによると、各地で、プライマリ・ケア・トラスト(国民医療制度NHSの一組織で、各地域の住民の医療サービス全般の計画・提供または委託を行なう)がリーダーになって慢性病患者のための地域保健・福祉ローカルプランを作る。初めは病院治療を頻繁に利用している患者に集中してケースマネジメントを適用する。また、この計画の中心として、キャリアのある地域看護婦が慢性病患者専門に保健と福祉サービスの調整に当たることとなる。包括的なセルフケアの支援対策の開発や、ケアに携わる人たちへ助言できる多専門職チームの設置なども盛り込まれている。
雇用と職業訓練における年齢差別を禁止するEU指示(European Employment Directive)に基づいて、英国政府は2006年10月までに年齢差別対策Age Discrimination法を施行しなければならない。その一環として貿易産業省www.dti.gov.ukは、労働現場での年齢差別に対処するため、あらたな方策を発表した。従来、雇用者は独自の判断で退職年齢を決めてよかったが、65歳以下では法的に理由を証明できない限り退職を強制できなくなった。さらに被用者が65歳を過ぎても勤務を希望する場合、それを雇用者に要求する権利が認められた。雇用者は同省の決める手続きにそって、その要求を考慮する義務が生じる。また、政府は2011年に方策の見直しを行ない、退職年齢を廃止すべきかどうかも検討する。
しかし、高齢者のためのNPOエイジコンサーン
www.ace.org.uk
は政府の方針がEUの指示に十分に対応できていないのではないかと不満を表明している。65歳という制限に関して法廷で争うケースも出てくるだろうという。
首相府www.cabinetoffice.gov.ukの戦略課がwww.strategy.gov.uk
障害者の生活を改善するための重大な計画書を発表した。同計画書は2025年までに、障害者が生活を豊かにする様々な機会と選択を十全に有し社会の一員として尊重され平等に扱われるようにするというビジョンをかかげている。キイポイントは自立生活支援、家族への支援と幼児期の教育、少年から成人に移行する時期のギャップの無いスムーズで十分な支援、雇用に関する支援。
この計画書の中で特に重要な内容は、福祉用具や交通・移動や介護、そして住宅改造などの各項目に分かれた従来の予算を1つにまとめ、各障害者の個人予算にするというコンセプトだ。すでにコミュニティケアではケアマネジャーではなく、サービス利用者本人がケアパッケイジを決め、サービスを購入する直接現金給付の仕組みが導入されているが、それをさらに拡大するものになる。
週刊誌コミュニティケアwww.communitycare.co.ukによれば、個人予算のコンセプトは利用者主体の制度として歓迎されているが、「実施の詳細が未定で不安」、また直接現金給付の利用者が少ないことから「同じような結果になるのでは」との指摘もある。今後3年で試験プロジェクトが行なわれる。
児童福祉を目的とするNPOバナードズwww.barnados.org.uk
の歴史は1867年に、トマス・バナード医師が貧しい子供のために教育施設を設けたことに始まる。翌年には身寄りのない子供のために児童福祉施設を設け、同医師が亡くなった1905年には60以上の児童福祉施設を運営していた。
それから100年に当たる今年を記念して、バナードズは「人生の良きスタート」Better start in lifeというアピールを行なっている。100万ポンドの寄付を集め、英国全体、14の地域で、性的虐待の被害にあっている青少年(10歳から18歳)に実際的な助言援助や情緒的支援を提供するためのプロジェクトを実施するのが目標。警察の統計データによれば3分の2の児童への性的虐待は闇の中に隠されたままになっているという。バナードズは過去3年間で性的虐待の危険にある4000人の援助に尽くしてきた。警察が性犯罪者を逮捕するための資源をもっと増やすよう訴えている。