![こんにちは!村田裕子です。
2006年より新コーナー開設!
ここは、ひとことでいうと村田裕子の部屋。
福祉の枠にとどまらず、自由に生活者の視点で心に残った輝きを綴っていきます。
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入所中の老人保健施設の桜を見上げ、父は嬉しそうに頬をほころばせた。肺炎で緊急入院をしてから、ちょうど2ヶ月(※)。父の急変に立ち会い、自宅で二人きりになるのが怖いとショックを受けていた母にも、ようやく笑顔が戻った。私は、満開の桜の木の下に立つ二人の笑顔に、携帯電話のカメラを向けた。そしてこの笑顔は、父の老人保健施設入所によって支えられていることを実感した。
老人保健施設は、要介護1〜5に認定された人が利用できる介護保険の施設サービスで、入浴、排泄、食事などの介護と、リハビリを中心とした医療ケアを受けることができる。病状の安定した人が、在宅への復帰を目指すための施設だ。父の在宅での暮らしを支える自信がないとの母の意向と、父母を見守ってくれていたケアマネジャーさんのアドバイスにより退院直後の在宅復帰を断念した私は、父の老人保健施設入所に向けて行動を開始した。介護保険制度では、施設サービスへの利用手続きは家族が行わなければならないことになっている。
市内の施設名簿と地図を見比べながら、比較的自宅に近い5ヵ所の施設に電話を掛けた。父母の状況を説明し、翌日、翌々日の2日間で3ヵ所の施設を訪ねた。それぞれ2時間にも及ぶ面接で、病歴はもちろんのこと、父の生まれ在所から現在までの経歴や身体状況等を細かく聞かれ、施設の見学をした。父の入院する病院のケアワーカーさんにもご協力をいただいて、医師の診断書も送付した。しかし、そのうち2ヵ所の老人保健施設には、あっという間に断られてしまった。入院中の父は、トイレに行こうとして起き上がったり、点滴をはずしてしまうために拘束をされていたのだが、それが受け入れ困難と判断されたのだ。
市内施設の入所基準が統一されている特別養護老人ホームと違い、老人保健施設の場合は施設によって対応がまちまちだった。施設まで利用者本人を連れて行っての面接が必要というところもあれば、わざわざ相談員さんが病院まで足を運んで面接してくれたところもある。ほぼ毎日リハビリをしているという施設の利用者さんは皆お元気に見えたが、もともとあまり重い人は受け入れていないようだった。逆に家族面接だけで、かなり重度な人でも申し込みを受け付けてくれる施設もあった。週1回は家族が洗濯をしにいくという施設もあり、驚かされた。
結局、あとに連絡をした施設もあわせて、2ヵ所の老人保健施設で入所待機をさせてもらえることになった。退院後は、とりあえず特別養護老人ホームのショートステイを利用できたおかげで、あとは一日も早い老人保健施設への本入所を願うばかりとなった。
それでも、いざ「明後日、ご入所いただけることになりましたが、ご都合はいかがですか?」とのご連絡をいただいたときには、心のどこかが躊躇した。「よろしくお願いします」と答えながらも、我が家に帰れない父を想う…。
満開の桜は、人を笑顔にする。しかしそれも、花を堪能するだけの感性と心のゆとりがあればこそのことだろう。桜の木の下で微笑む父母に、花を愛でる心が取り戻せたことを感謝しつつ、私はカメラのシャッターを切った。