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NO.20

古楽器からの誘い

 そのオペラは、華やかなファンファーレで始まった。1607年に初演されたモンテヴェルディ作曲の『オルフェオ』は、オペラの歴史における最初の傑作とも、現在でも上演されるオペラ誕生期の名作ともいわれている。
 場所は、神奈川県立音楽堂。美しい音響で定評のある木のホールだ。

 オペラ『オルフェオ』は、「毒蛇に噛まれて急死した最愛の妻を地上の世界に取り戻そうと決意して、主人公のオルフェオが黄泉(よみ)の国へと向かう」という、ギリシャ神話を題材にした物語。
 ムジカ(音楽の精)によるプロローグから、第一幕では婚礼を祝う牧人やニンファによる愛の喜びの歌が奏でられる。古楽的な歌唱法、古楽器の持つどこか懐かしい民族音楽のような親密さと躍動感に、まず身体が反応した。そして、心が躍りだす。眠くなるかもしれないという危惧は、途端に吹っ飛んだ。
  舞台の上には、25名ほどの古楽器アンサンブルも並ぶ。バロック・オペラを観るのは初めてなので、見たこともない形状の古楽器に興味津々。だが、キタローネ、コルネット、アルパ・ドッピアといわれても、それが楽器の名称であることすらピンとこない。かろうじて、舞台中央のチェンバロだけは知っていた。以前チェンバロ技術者の方にインタビューをしたことがあるのだ。
 チェンバロは、ピアノと同じような鍵盤楽器だが、鍵盤を押すと木片に取り付けられたツメが弦をはじくという仕組み。音の出し方としては、ハープやギターに近い。チェンバロ(イタリア語)、ハープシコード(英語)、クラヴサン(フランス語)等いくつもの名前を持ち、18世紀後半には世の中から消えてしまったというミステリアスな楽器。その繊細で柔らかな音色を、私はモーツアルトのオペラなどで聴くことがある。しかし、19世紀のベートーベンの時代には、良質のピアノが作られ始めたこともあり、すでになくなってしまっていた。実は、フランス革命の後に燃やされたという話も…。
  バロック時代の曲を弾くのに適しているということでチェンバロが復活し、ヨーロッパで普及し始めたのは1950年頃。今からたった数十年前のことだという。

 オペラの中の主人公オルフェオは、その後「素晴らしい歌声により妻を連れ戻す許しを得たものの、不安にかられて冥王との約束に背き妻を振り返ってしまう…」のだが、愛するがゆえの苦悩、そしてフィナーレまで、私にとってはあっという間の2時間だった。
 50年以上も前に建てられた音楽堂で聴いた400年前のオペラ。チェンバロを始めとする古楽器の奥深さと瑞々しい感性に誘われ、私はバロック音楽への扉を開けてしまったようだ。開けたからには、振り返ることなく誘われていこうと思う。オルフェオみたいに、冥王と約束をしたわけではないけどね。

2008.02│PermaLinkProfile
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