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NO.15

夏の宿題

 計画作りは得意なのだが、嫌なことをつい後回しにしてしまう私は、毎年多くの宿題を抱えたまま夏休み終盤を迎えていた。白状すれば、どうしてもできあがりそうにない工作を、母に手伝ってもらったことがある。高校生のときには、友人に生物のドリルを丸写しさせてもらったこともある。「どうせ間に合わないので提出しない」と諦めてしまった私を諭し、自宅に招いて自身が仕上げたドリルを書き写させてくれたのだ。
 そんな私が、大人になっても提出期限に追われる仕事をしているのだから、人生はトータルで辻褄が合うようにできているのだろう。とはいえ、嫌なことは後回しの性格は変わらないので、今もギリギリセーフといった綱渡りを繰り返している。
 そのうえ私には、数年前から自分自身に課した「夏の宿題」がある。それは、戦争に関する本を読むこと。感想文を書くわけでも、ましてや立派な活動に役立てるわけでもない。たった一冊の本を読むだけのことなのだが、これがなかなか果たせずにいる。実を言えば、悲惨なこと、辛いことを突きつけられるのが大の苦手なのだ。だからこそ、せめて年に一度くらいは、戦争と向き合う時間を持たなければいけないと考えたのだが、暑さにかまけ、仕事にかまけて、今年も終戦記念日が終わってしまった。
 グズグズと躊躇していた私の背中を、ポンと押してくれたのは「最近読んだ本では、『散るぞ悲しき〜硫黄島総指揮官・栗林忠道〜』(梯久美子著・新潮社)がよかったです」という友人からのメールだった。本の読み聞かせをライフワークにしている彼女からのお勧め本メールには、ハズレがない。さすがに覚悟を決めて、読み始めることにした。
 それは、太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島で、2万余の兵を率い、最期まで壮絶な戦いを指揮した陸軍中将・栗林忠道の内面にまで迫るノンフィクションだった。
 その知略により米軍を最も怖れさせたという総指揮官であり、一方、家族への手紙の中では妻の赤ギレに同情し、お勝手の隙間風を気にかけて心細やかにアドバイスをする夫であり、幼い末娘を夢に見る父であった。私は、どのような過酷な状況下にあっても、他者を思いやる愛と想像力を失わない栗林忠道の姿に感銘を受けた。

 一滴の湧水すらなかった硫黄島に思いを馳せ、それからは、せめて水や野菜を無駄遣いしないようにと心がけている。それでも私のことだから、いつの間にかまた元の暮らしに戻ってしまうかもしれない。
 けれど、だからこそ、年に一度でも戦争に関する本を読むという「夏の宿題」をやめられないのだ。いや、やめてはいけないのだと思っている。     

2007.08│PermaLinkProfile
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