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NO.14

憑神さまの心地好い裏切り

 『憑神』という映画を観てきた。それには、3つの理由(わけ)がある。
 1つには、原作者浅田次郎氏の小説が大好きだから。浅田作品は、不器用ながらも懸命に生きる人々への眼差しが優しい。幕末期の江戸に生きる貧しい御徒士(おかち)が、貧乏神、疫病神、死神という災いの神さまに取り憑かれるという小説『憑神』も、笑いあり、涙あり。さらに、ラストシーンの毅然とした主人公の姿は、思わず「あっぱれ!」と拍手したくなるほど爽快だ。
 2つ目は、主人公を演じる妻夫木聡クンのファンだから。
 そして、3つ目にして最大の理由が、この映画の衣装製作をお手伝いされた悉皆屋さんとの出会い。

 悉皆屋(しっかいや)とは、和服に関する顧客の意向を踏まえ、その工程を想定しながら「染め」「仕立て」等の職人に指示を出し、完成までの全責任を担うというご職業。
 私の出会った小塩染物店店主・小塩英明さんの名刺には、「呉服全般」から「洗い張り」「小紋染め」「各御仕立て」、さらには「名入りのふくさ」まで、18項目もの営業品目が並ぶ。残念ながら、今では呉服屋や染物店というのが一般的で、名刺にも悉皆屋の肩書きはなかったが、「和服のことなら何でも」の添書きに悉皆屋としての強い思いを感じた。
 「洋服と違い和服には多くの工程があり、その工程ごとに専門の職人がいます。私の場合洗い張りは自分でしますが、その後の色抜き、染め、家紋付け、さらに模様を描いたり、刺繍をしたり、金箔を貼ったり…。そして、御仕立て。それらのすべてでネットワークを駆使し、型染めならばあそこの工房、この刺繍ならあの職人と組み立てて、お客様のご希望に添った和服を仕上げるのです。悉(ことごとく)(みな)という字のとおり、和服のことなら何でもご相談に応じます」と、小塩さん。
 最近では、現代の悉皆屋さんならではの分野でもご活躍をされている。それが、『北の零年』、『寝ずの番』、そして『憑神』などの映画に関するお仕事。『憑神』では、主人公と3人の憑神さまの和服を染め上げた。和服コンサルタントというような言い方をされることもあるそうだが、ここはやっぱり、悉皆屋でないとしっくりいかない。

 それにしても映画『憑神』では、赤紫色の和服を着て、同じ色の帽子まで被った西田敏行サンの登場に度肝を抜かれた。まして、その福々しいお大尽さまが貧乏神だったとは…。原作を読んでいたにも関わらず、「九頭龍」と太字で染め抜かれた厄病神の柿色の羽織にも、童女のような死神の真っ赤な着物姿にも、私のイメージは心地好く裏切られた。これぞ、衣装の効果であり、映画鑑賞の醍醐味だろう。
 悉皆屋の小塩さん、今年12月公開の『椿三十郎』でも衣装製作の協力をされているという。45年前の黒沢映画のリメイク版だが、原作は山本周五郎の『日々平安』。またまた原作を読んで、そのイメージを大きく膨らませておこう。心地好く裏切られることを期待して。

2007.07│PermaLinkProfile
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