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NO.11

トマトの偉力

 そのトマトには、産毛があった。ツルツルだとばかり思っていたトマトの皮から、1〜2oの長さの白い産毛が生えている。たっぷり熟して真っ赤な顔をした実はズシリと重く、味は甘くて瑞々しい。
 それが、年齢の近い従姉妹の家で作ったトマトと聞いて、私は嬉しい衝撃を受けた。東京の短大を卒業して幼稚園の先生をしていた従姉妹が、神奈川県内の専業農家に嫁いで30年。今では息子も後を継いでいると聞いてはいたが、こんなに美味しいトマトを作っていたなんて、「かなわないな〜」と思わず頬が緩んだ。
 以来、1月から7月にかけての生産期には、月に1回のペースでこのトマトを宅配してもらっている。

 ある日曜日の朝、いつのようにトマトにかぶり付いていると、地元テレビ局の番組に偶然トマトの温室が映し出された。230坪の温室内で1700本ものトマトを前に説明をしているのは、間違いなく従姉妹の長男だ。「土壌消毒では米糠を敷き、その発酵する温度で熱消毒を行っている」こと、「肥料はできるだけ有機質のものを使っている」こと、「水やりは制限せず、人間と同じように汗をかいた分だけ適度に水を与えている」ということなど。番組を通じて、私はこのトマトがどのように育てられていたのかを初めて知った。それまでは、『ハウス桃太郎』という品種名すら知らなかったのだ。
 さらに、日当たりの良い南側ではトマトが早く育つので小粒に、ゆっくり育つ北側のトマトは大粒になるということもわかった。確かに、小粒のトマトは甘みが強く濃厚な味で、300gもの重さがある大粒トマトは果肉にコクがあり飽きのこない味と感じてはいたが、トマトの味や大きさが温室内の場所によって変わるとは思ってもみなかった。
 食卓のトマトを改めて眺めてみると、その産毛までが生命力いっぱいに輝いている。ヨーロッパには「トマトが赤くなると医者が青くなる」との諺があるらしいが、これはビタミンA(β−カロテン)、C、Eや食物繊維(ペクチン)に加え、カリウム等のミネラルやビタミンB群も含まれているトマトが、栄養バランスをとるのに適した食べ物だからだろう。最近では、活性酸素を消去する抗酸化物質のリコピンが含まれるということでも注目されている。
 生食はもちろん、昆布と同じグルタミン酸という旨味成分も含まれているトマトは、煮込み料理にも最適。そういえば、さわやかな酸味は塩味スープとの相性も良く、筒井書房の近くで食べたトマトタンメンもなかなかの美味。銀座のデパートの青果売場に、16種類ものトマトが並んでいるのには驚いたが、これもトマトの人気の証だろう。

 人を元気に、幸せにすることのできるトマトには、どんな言葉も及ばない説得力がある。トマトには、そしてトマトを作る人の偉力には「やっぱりかなわないな〜」と頬を緩ませながら、今日も真っ赤なトマトにかぶり付いている。

2007.03│PermaLinkProfile
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