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NO.9

そのとき、腕時計が…

 初めての腕時計は、父のお古だった。手巻き式だったので、毎晩リュウズを巻くのが私の日課となった。
 高校入学のお祝いにと買ってもらった腕時計は自動巻き。腕にはめて普通に動いていれば、自動的にゼンマイが巻き上げられるという優れものだったが、しばらく置いたままにしておくと止まってしまう。
 自分で働くようになってから購入したクォーツ腕時計は、精度も高く、電池が切れるまで黙々と動いてくれる。日常の生活から、腕時計に割く時間とイライラはほとんど解消したのだが、2年に一度の電池交換で1000円ものランニングコストがかかるのが難点だった。
 そしてこの正月、ついに『光発電・電波時計』を手に入れた。この間まで10万円以上もしていた腕時計が、半額程度で買えるようになったのだ。太陽光や蛍光灯などの光を電気に変換して駆動する光発電機能の搭載で、電池交換の手間もコストも不要。しかも、日本標準時をのせた標準電波を受信して自動的に時刻を修正する電波時計は、いつでも正確な時を示してくれる。これぞ、究極の腕時計と確信した。少々厚みがあるのは気になるが、ワインレッドの色もデザインも気に入った。
 「太陽の光をいっぱいに浴びて、あせりもせず、遅れもせずコツコツと動き続ける」という時計からは、ちょうど節目の年齢の正月に、これからの私自身の生き方を示唆されたようにも思えた。さらに表面硬化技術やサファイアガラスの使用により、傷がつきにくいというのも嬉しい。「少しのことで傷つきめげることなく、輝き続けろ」と言われているようだ。
 私は、これからの人生の大切な時を、この腕時計とともに刻んでいこうと決めた。

 一ヶ月が経って、あろうことか、その大切な腕時計には埃が被っていた。フル充電しておけば半年間は光を当てなくても稼動し続けるというのだが、箱に入れてしまうのが不安で、とりあえず鏡台の上に出しておいたのがいけなかった。これでは私の人生も、誇りならぬ、埃にまみれてしまうではないか。
 今にして思えば、電池切れで引き出しの片隅に忘れられた安価な腕時計や、鬼のような顔で「また止まっている」と力いっぱい振り回されていた自動巻きよりも、毎日両手で包むようにしてリュウズを巻かれていたお古の腕時計が、一番幸せものだったような気がする。手間がかからないということは、それだけ心も離れてしまうことなのだろうか。
 そのとき、電池交換不要の腕時計が、凛と私に微笑みかけた。手間いらずの『光発電・電波時計』は、だらしない私を戒めるかのような笑顔を浮かべて、それでもコツコツと動き続けていた。
 今度こそ、この腕時計を埃まみれにしないよう、まずはおしゃれなガラスケースを見つけてこよう。自立した腕時計にお似合いの、透き通ったガラスのケースを。

2007.01│PermaLinkProfile
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