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NO.8

シクラメンの調べ

 色とりどりに並ぶシクラメンの中から、今年の一鉢を選ぶのは、冬の楽しみの一つだ。
 私は決まって、まず立ち姿の綺麗な鉢を探す。葉の数が多く、こんもりと揃った緑の中から、スクッと背筋を伸ばした花がバランス良く咲いているもの。色はその時の心持ちによって選ぶのだが、どうも優しく包まれたい時には暖色系、シャキッとしたいときには寒色系を選んでしまう。花びらの形は八重咲きやフリンジ咲きよりもノーマルなタイプが好み。そして、最後の決め手となるのは、花の表情だ。その表情に誘われて、今年はふっくらとした花びらに、深い赤紫色が際立つ一鉢を選んだ。

 年の瀬から新年にかけてのあわただしい時期を、シクラメンとともに過ごすようになって、かれこれ30年が経つ。当時、知り合ったばかりの夫が、サーモンピンク系の一鉢を届けてくれたのが始まりだ。まだ十代だった私は、ハートの形をしたシクラメンの葉に胸をときめかせ、流行していた「シクラメンのかほり」を口ずさんでは、「恋するときの君のようです〜」と歌われる薄紅色のシクラメンに憧れた。
 今ではすっかり、「ブタノマンジュウ(豚の饅頭)」というシクラメンの和名に似合うキャラクターになってしまったが、あんこ好きの私としては、この和名にも親近感を覚えている。シクラメンには「カガリビバナ(篝火花)」という美しい和名もあり、こちらは「はにかみ、思いやり」という花言葉がぴったり。さらに、「嫉妬」という花言葉もあるらしいが、可憐にうつむくシクラメンに、どうしてこのような花言葉が付いたものか。
 今までは不思議なことに、シクラメンの品種を意識したことがなかったのだが、今年選んだ一鉢が「ベートーベン」という品種と聞いて、俄然興味がわいてしまった。園芸農家のご主人が「パステル系の品種に作曲家シリーズというのがあり、バッハ、ブラームス、シュトラウス等、クラシックの作曲家の名前が付けられているのですよ。レンタロウという名もあったのですが、あまり人気がなかったようで最近では見かけませんね」と、教えてくれたのだ。
 言われてみれば、この深い赤紫色は確かにべートーベンらしい色合い。年末の「第九」(交響曲第9番)、新しい年にダダダ・ダ〜ンと扉を叩く「運命」(交響曲第5番)もいいが、今年は何と言ってもコミックやドラマでブレイク中の「のだめカンタービレ」で演奏される「ベト七」(交響曲第7番)の軽快な旋律が耳から離れない。リビングのシクラメンも、いっしょにスキップを踏んでいるようだ。
 桜の花びらのような薄いピンク色の「リスト」には、「ラ・カンパネラ」よりも「愛の夢 第3番」を。温かみのあるサーモンピンクに白いかすり模様が愛らしい「ショパン」には、美しい「別れの曲」のメロディーを。あでやかなローズピンクの「シューベルト」は、「セレナーデ」でいかがだろう。
 レンタロウ(滝廉太郎)の「花」や「荒城の月」が歌えないのは残念だが、楽曲とのコラボレーションで、ますますシクラメン選びが楽しくなった。その美しい調べをBGMにして、シクラメンもより表情豊かに語りかけてくれることだろう。

2006.12│PermaLinkProfile
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