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NO.7

ルチャ・リブレ

 帝国ホテルのティーラウンジで、プロレスラーと待ち合わせをした。
 現役、しかもヒール(悪役)だ。首から頭までタトゥーを入れ、眉にも鼻にもピアスを開けているという。なんでも「トンパチ野郎」などと呼ばれていて、たいそうハチャメチャなキャラクターのレスラーらしい。

 不安と好奇心でドキドキする私の前に、プロレスラー・折原昌夫は赤い半袖のアロハシャツ姿で現れた。眉間にシワを寄せてすごんでいる…、様子はない。体躯も、そう大きくはなかった。
 それどころか、「引き留められると厄介なので、ホテルの正面玄関を避けて入って来たのですよ」とシャイな笑顔。私は、取材相手にそのような気遣いをさせてしまった迂闊さを恥じると同時に、そのやわらかな物腰にホッとした。
 そんな折原も、ルチャ・リブレというメキシコ独特のプロレスに参戦するときは、「とにかく英雄扱いされるので、つい有頂天になってしまう」と言う。メキシコではルチャ・リブレが国技のように盛んで、ルチャ・ドールと呼ばれるレスラーの圧倒的多数が覆面を被り、アクロバティックな技で観衆を沸かせる。あの初代タイガーマスクも、この地で修行をしたそうだ。折原もライセンスを取得し、ちょくちょくメキシコに渡っては、ルチャ・リブレのメイン・イベントにも出場をしている。「空港から試合会場までタクシーに乗ると、料金は要らないから会場に入れてくれとドライバーに頼まれる」ほど、メキシコでのルチャ・リブレ人気は高い。
 その熱狂ぶりを、最近公開された「ナチョ・リブレ〜覆面の神様〜」という映画で垣間見ることができた。映画の主人公ナチョもまた、心惹かれるルチャ・ドールだ。
 教会の修道院で育ち、そこで料理番として働くナチョは、粗末な食事をしている後輩孤児たちに美味しいものを食べさせたいとの思いから、ルチャ・リブレのリングに立つ。コメディータッチの映画ではあるが、ジャック・ブラック演じる主人公は表情豊かで魅力的。何をやってもとんでもなくダメなナチョだが、ピュアで一生懸命で優しいのだ。しかも、この映画は、フライ・トルメンタという伝説的ルチャ・ドールの実話がもとになっているという。

 ぱっくりと額が割れても瞬間接着剤で応急処置をし、椎間板ヘルニアで歯ブラシすら使えない状態でもリングに立ち続ける。ヒールのレスラーは家族にさえ恥ずかしいと背を向けられることもある。それでも戦い続ける折原は、その理由を「リングに棲む魔物に呼ばれる」と語る。この魔物こそが、きっと観客をも熱狂させるのだろう。
 ルチャ…戦い、リブレ…自由。その、どこかサーカスにも似た妖しさと、昭和30年代に戻ったような懐かしさの入り混じるリングには、より多くの魔物が棲み付いているに違いない。

2006.11│PermaLinkProfile
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